１．成田発９：４５ＮＨ９１９便

海外旅行 自慢じゃないが、金が無かったので飛行機に初めて乗ったのは会社に入ってから。愛媛工場での新入社員研修を終えて大阪まで帰る時だったが、ちょっと怖かった。確かスチュワーデスさんと向かい合わせの席で、彼女の笑顔に勇気づけられたような気がします。 初めての海外旅行は２０数年前の新婚旅行。手荷物とバッグだけでパリ・ロンドンに。慌ただしい観光地巡りは好きではなかったので、二つの都市で地下鉄を乗り継ぎながら彷徨いたのが面白かった。女房は全日空に勤めていたので、エアラインディスカウントが大きくて安上がりだったのが良かった。 それ以後、毎年一回は海外旅行をしようと、翌年はハワイ。バスを乗り継いで島内一周したり、特に実弾射撃は海外ならではの経験で、異様な感覚を味わいました。銃を撃つって結構簡単で、しかも面白いということそのものが恐ろしい。撃つのは良いが、撃たれる立場はかなわない。 次の年はロサンジェルス。まだ日本にディズニーランドが無かったので、本場を経験しようとこれまたバスでウロウロ。ダウンタウンを通っても、一般の乗客は親切だった気がする。 私はディズニーランドよりも、どちらかと言うと有色人種向けのテーマパークであるナッツベリーファームの方が、異国情緒溢れて面白かった。当時、「モンテズマの復讐」という絶叫マシーンは、ポパイ愛読者の中では結構受けてましたが、今の私は絶対に御免です。 高い所から下を見ると、膝の裏から背筋に架けてゾワゾワと寒気が走るし、一気に駆け下りる時には腹の底から吐き出しそうになる。あの頃はよく乗れたもんだ、自分でも信じられません。 子供が生まれてからは、とても子連れで海外に行く気になれず、長い間お預け。二人の子供が小学校高学年になって、初めて家族でグアムとオーストラリアへ行きましたが、最近は、親とも遊んでくれなくなったし、受験も近くてここ２年ほどは行ってません。 海外旅行の楽しみは、もちろん名所旧跡も見ものだし、異文化との接触なども楽しいけれど、日本語の通じない世界というのも魅力の一つです。片言の英語で何とかコミュニケーションを図るのは面白い。 メトロで地図を見ていたら、教えてくれたイギリス紳士。ホテルのエレベータのドアを、１０ｍは離れている我々の為に、開けて待ってくれていたご夫婦。ハワイのバスの中で会話した親子。オーストラリアの笑顔のウエイトレス。これまでの経験では、日本語が通じないことがデメリットではなく、 逆に素朴なコミュニケーションを楽しめるメリットとなり、これが新鮮で楽しかった。 実は、「まるっきり言葉が通じない世界」という体験をさせてくれたのが今回の旅の収穫の一つでしたが、それは後述することにしましょう。 歳を取り、知見が広がるに連れ、自分はどこから来たのか、何処へ行くのか、ということが気になって来ました。元々そういう関心が有ったから人類学や歴史に興味を持ち、大学で専攻したのかも知れません。最近は海外でも、欧米ではなくやはりアジアを体験しなくては知見が狭すぎるのでは無いかと思うようになってきましたが、 普段でも飲んだくれて勝手なことをすると、家族の受けが良くない私が、一人旅行をするのはちょっと言い出しにくいし、情報収集も面倒で日にちが過ぎてました。 そんな時、２０年来の友人、高木社長の縫製会社ブルーオーシャンが研修旅行をすると聞き、これ幸いと、便乗させて貰うことにしました。コースも何もかもお任せで、とにかく上海に行く。かつての魔都、李香蘭、上海バンスキング、サントリーウーロン茶のＣＭの上海ブギウギ、程度の知識しかないのに。 でも、これで良いのだ。私のカンでは、これはチャンスだとピクピク感じる。この感覚に、これまで間違いは無かったのである。「迷ったらやる」が私の行動原則なのだから。

高木社長 ところで、高木社長はとても変な男だ。外見は坊主刈りのやくざみたいだが、誠実でしぶとく、仕事の出来るナイスガイで、声を荒げる所を見たことがない。それに引き換え私は、理不尽なことがあると誰であろうと突っ掛かって行く。彼と付き合っていると、自分の幼さを実感して反省することが多い。反省と実行はしばしば離反するけれど。 若い頃はレースが好きで、トヨタ車を改造してレースに出ていたが、結局その縁でＴＲＤのウェアを作るところから縫製業界に参入して来たようだ。当初は、パチパチキャンディを初めて日本に輸入して儲けたり、ストーンウォッシュジーンズを大量に仕入れて在庫に泣いたり、色々有ったらしいが、ある時、縫製工場に生産依頼したら、 あまりの杜撰さに呆れて自分で縫製会社を始めた、というのが今の会社の発端のようだ。 もう１０年近く前から中国縫製に取り組み、今回は自社工場を建てようという強者だ。なぜか良い取引先を嗅ぎ分ける能力があり、引っかかりが無く堅実な経営をしている。本社が私の自宅の隣駅に有るので、公私ともにお付き合いをさせて貰っている。 初めて会った２０数年前は、赤いＫＰ６１スターレットに乗っていたが、時と共にマーク�U、クラウン、ＢＭＷ、セルシオとグレードアップしてきた。上海工場設立が新たなステップアップになるに違いない。 酒と料理が好きで、地元の良い店を良く知っているし、自分でも燻製炉を製作して、楽天で燻製品をオンライン販売していたこともある凝り性だ。最近は身体をいたわって焼酎派になり、酒好きの私を馬鹿にしている。現在の縫製業に加えて飲食店を経営して、ミニ ? コングロマリットで「市川の帝王」になったらどうか、 とけしかけるのが半分本気の私の提案なのだが。 デカイ会社よりも、しっかり組織された小さい会社の方が、面白くて遣り甲斐があるのは間違いない。

出発 面倒な手続きはお任せで、いつの間にやら１１月７日。今回は朝が早いので、初めて愛車ＭＰＶで行き駐車場に預ける事にしたけれど、４日間４９００円は便利で安いのかなと思う。 ７時４５分集合のため、余裕を見て５時起きの５時半出発にしたが、高速が空いていたため一時間も前に着いてしまった。 空港をウロウロしたが、店も７時か７時半開店なので、しばらく待ってマクドナルドで軽い朝食。そのうち我々のツアー受付であるＤカウンターに、三々五々人が集まって来始めた。 メンバーは１２人。部外者は、会計士のＥ先生、ソフト開発会社のＭさん、プリント会社のＳ社長、喫茶店主のＯさん、そして私のオジサン五人組。７人の社員は若くて、男４人女３人。今回幹事をしてくれるＩさんは、上海生まれで日本人と結婚した女性だが、上海が初めての人も多く、 珍道中が予測されて楽しそう。特に、問題児Ｔさんは良いキャラクターだ。若くて素直でちょっとすねていて、可愛い反町君という感じ。彼はこの旅行中、買い物に夢中になったり、夜の世界で大盤振る舞いを強要されたり、なかなか楽しいキャラクターだった。後述するのでお楽しみに。 そうこうする内、団体用のチェックイン口で搭乗手続きを終え、無事手続き完了。普段ならキャリィバッグも機内に持ち込むのだが、団体なので預けてしまった。用心のため、キーホルダーや旅行セットに入っているアーミーナイフは置いてきたから、探知機での引っ掛かりは無かった。 引っ掛かると慌てるし、書類も面倒なんだよね。 以前は飛行機までバスが多かったが、今ではシャトル便が出来てるんですねえ。乗り方も分からなかったけれど、知らん顔して廻りの人について行っちゃいました。便利便利。 成田発９：４５のＮＨ-９１９便　ボーイング７７７は、これまで海外と言うと７４７ジャンボ機の大きさに慣れていたので、とても小さく感じた。 機内は三列シートが左・右・真ん中にあり満席で、シートは相変わらず狭いが、ヒョットシテ俺が太ったためか ?　エコノミーでももう少し席に余裕が欲しいなあ、進歩が無さすぎじゃないかい。 座席でビデオが見られるのにも吃驚、以前はジャンボ機にも無かった。たまたま見た「チャイニーズ・オデッセイ２００２」（原題 : 天下無双）はめっけもんだった。 帰国してからインターネットで検索すると、「チャイニーズ・オデッセイ」は西遊記のリメイクで結構ヒットしたらしいが、それにあやかって題名を付けた様だ。これは西遊記とは無関係で、王子と王女、庶民の兄妹の二組が、それぞれ結ばれるラブコメディ。 カンフー有り、歌有り、ロマンス有りで中国の文化が楽しめるが、庶民の妹に扮するヴィッキー・チャオが、可愛いくて生き生きしていた。実は、帰国便の時も見てしまったのです。 また、江戸時代から伝わる日本伝統の釣り、「タナゴ釣り」のビデオもあり、これも面白かった。微細な釣り針と仕掛けを使い、あの綺麗で小さなタナゴを釣るなんて、子供の頃、網で採っていた私には、ビデオを見るまで想像も出来なかった。 色んな釣りが有るんだねえ。 席が真ん中だったので、左右のＥ先生、Ｓ社長と話したり、ビデオを見て食事をしていると、アッという間に浦東空港着の３時間半。１時間の時差が有るから、実質は２時間半かな。上海は晴れてはいるが、何だか茶色っぽい風景。 何があるか楽しみな、これからの四日間だ。

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